創業を予定している方、創業間もない方は提供事業の決定に始まり、マーケットの選定、販路拡大、資金繰りなど、事業を軌道に乗せるためやるべき事は多々あり、リスクマネジメントは後回しにしがちです。
しかし創業間もない時期は外部環境・内部環境の影響を強く受けるため、リスクをコントロールしていかないと取り返しのつかない事態になりかねません。
ここではリスクマネジメントについて、スタートアップ時期に特に考慮すべきポイントと対策についてご紹介します。スタートアップ時期のリスクヘッジとして有効な保険の活用の仕方、選び方についてもご紹介します。
リスクマネジメントの手順
リスクマネジメント(危機管理)とは、長期的な視点を持ち、将来発生しうる損失を回避または軽減していくことです。リスクをコントロールするための手順として
を実施します。
それではそれぞれの手順についてポイントを見ていきましょう。
1.リスクの確認
事業内容が確定し、マーケットの選定が終わると、事業で想定されるリスクが明らかになるため、そのようなリスクをもれなく洗い出していきます。
全ての事業に共通するリスクとしては例として以下のものがあります。
- 自然災害
- 災害による事業への影響
- 社員とその家族の安全の確保
- 事業所の被害
など
- 経済環境の変化
- 為替レート、株価の変動
- 東京オリンピックなど経済環境に影響を与えるイベント
など
- 法令順守
- 一般的な法令、業界特有の関連法規を遵守する上での事業への影響
- 関連法規の改正
など
また、事業の特性により想定されるリスクを合わせて洗い出していきましょう。
2.リスクの評価
洗い出したそれぞれのリスクについて発生頻度と発生した場合の影響の度合い(発生強度)で分類してきます。
- 発生頻度【多】・発生強度【大】
- 発生頻度【少】・発生強度【大】
- 発生頻度【多】・発生強度【小】
- 発生頻度【小】・発生強度【小】
- 人分野
- モノ分野
- 賠償分野
- 利益分野
このカテゴリに分類されたリスクがある場合は、事業の継続性について懸念されます。リスクへの対策ではなく、事業そのものの見直しを視野に入れましょう。
自然災害や業務上過失による損害賠償など、頻繁には発生しないが発生すると多大な損害を被るものです。
このようなリスクをヘッジするために損害保険を活用するのも対策の一つです。
従業員の退職や取引先の倒産など発生頻度は多いが損害が比較的小さいものが相当します。
この分野についても損害保険を活用できます。また、予算化し、会計上引当金を計上しておくなどの対策も有効です。
発生頻度も少なく、発生したとしても経常利益の範囲内で対応できる場合は優先順位を低くします。
3.対策の実行
評価したリスクについて対策を具体化し、実行します。特に創業時は会社の資金面での影響を最小化するためにも、財務面でのリスク対策(リスクファイナンス)を適切に実施する必要があります。
リスクファイナンスには「リスク保有」と「リスク移転」の2つがあります。リスク保有とはリスクが発生した際に自己資金で対応します。対してリスク移転は第三者に資金的なリスクを移転するもので、保険などが該当します。
ここではリスクファイナンスのうち、保険に着目し、実際にどのようなリスクにどのような保険を活用したらよいかご紹介します。
保険は「人分野」「物分野」「賠償分野」「利益分野」の4分野で検討します。
経営者、役員、従業員にはそれぞれ死亡リスク、罹患リスク、休業リスク、災害リスクがあります。検討すべき保険は以下のとおりです。
死亡リスク | 罹患リスク | 休業リスク | 災害リスク | |
---|---|---|---|---|
経営者 | 生命保険 | 生命保険 | 損害保険 | 生命保険 |
役員 | 生命保険 | 生命保険 | 損害保険 |
生命保険または損害保険 |
従業員 | 損害保険 | 損害保険 | 損害保険 | 生命保険 |
創業経営者の場合、どのリスクであったとしても、事業継続に多大な影響を与えます。病気や怪我の内容にかかわらず保障される生命保険を中心に検討しましょう。
役員の場合は会社に与える影響度合いにより、生命保険を中心にするか、損害保険でコストカットするかを検討しましょう。
従業員の場合は通勤・業務に関するものが最低限保証するべきものとなるので損害保険を中心に検討しましょう。福利厚生として生命保険を中心にして保障を厚くする対策も有効です。
建物や什器、工場の機械設備といった動産・不動産などのモノ分野で活用できる保険としては火災保険、動産総合保険、機械保険があります。
リスクとなる動産・不動産に対し、最低限必要な補償範囲を設定し、資産の取得時期と取得価格を確認して新価で保障するか時価で保障するかを決めた上で各保険会社に見積を依頼して比較検討しましょう。
事業で発生しうる事故などで、社員または家族、株主、ユーザなどステークホルダーに対して損害賠償が発生するリスクです。発生頻度や、発生した場合の損害額を想定し、保険を検討しましょう。保険商品によっては弁護士費用も付帯設備となる場合もあるので確認しておきましょう。
また、この分野は保険会社によって金額にばらつきがあるため、保険金額が年間10万円を超える場合は複数社に見積もりを依頼し比較した方がよいでしょう。
また、事故が実際に発生した場合の対応力にも差があります。企業賠償責任保険を多く取り扱っている代理店や経験豊富な営業マンが対応してくれるかも検討材料としましょう。
不測の事態で事業がストップしたとしてもコストは発生します。一時的な事業の休止にも耐えられるよう、利益計上と現金確保はしておく必要があります。
また、生命保険は利益分野でも効力を発揮します。生命保険は本来人分野のリスクヘッジですが、生命保険は利益控除となるため、簿外資産形成としても有効です。
損害保険は補償が制限されますが、コストは低減できるので、必要な補償範囲を考えながら選択します。
また、利益分野のリスクヘッジとして活用できる保険としては「利益保険」「店舗休業保険」「取引信用保険」などがあります。
終わりに
創業時には事業を安定して継続していくために、マーケティングや新商品・サービスの開発といった攻めだけではなく、リスクをコントロールする守りも合わせて必要です。
そのためにリスクをコントロールするための対策をしっかり実施しましょう。その際にコストと補償範囲を把握して保険を組み込んでいくことも検討しましょう。